三十年河東同西

落ちこぼれがいつまでも落ちこぼれのままだって、誰が決めたんだよ?教えてやるよ――“最強”への方程式(メソッド)ってやつをな。俺はあいつらの教官を引け受けた。そして、あいつらを一人前の空戦魔導士に育てるって自分に誓ったんだ。 俺が嫌われることであいつらが強くなれるなら、そんなの全然大したことじゃねえよ。 強くなれ。そして、俺たちと同じ空に来い。TVアニメ、空戦魔導士候補生の教官、7月より、放送開始。

TVアニメ『DYNAMIC CHORD』第1~3話(KYOHSO&YORITO、春編)を振り返る

 

□はじめに

 2017年10月よりTBSモクヨルにて絶賛放送中のTVアニメ『DYNAMIC CHORD』、 第1~3話(KYOHSO&YORITO、春編)が素晴らしかったので第4話の放送前に振り返る。

 

□あらすじ 

 今注目のアーティストが多数所属している音楽事務所兼レコード制作会社 「DYNAMIC CHORD」。その中でも特に人気を集めている4つのバンドが存在する。 [reve parfait]、Liar-S、KYOHSO、apple-polisher 華やかな世界に身を置く16人のバンドメンバーが、様々な出会いや別れを経て、 それぞれが目指すステージに向けて奏でていく軌跡――。日本の四季を背景に彼らのリアルを描いたドキュメンタリームービーが、今、幕を開ける。

 

□第1話「Spring rain」

  • 雨と桜とオープンカー

 華麗に咲き誇る桜に、遠雷の轟をのせた雨がしっとりと降り注ぐ。悪天候の中で異彩を放つのは、屋根が開いた状態で信号待ちするオープンカーとずぶ濡れの男(YORITO)だった。

 同調していくワイパーとメトロノームの音。やがて時空の針は止んでしまった。儚さを湛えた赤髪の彼は何を想っているのだろうか。

 マンションの喧騒を他所に信号は青に変わる。エンジンを目一杯回して発進して行くその姿からは怒りすら感じられる。遠くで雷が落ちたようだ。

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  • シャッター音の連写

 カメラマン道明寺辰哉(パパラッチ)の執拗な連写に挟まれながら、DYNAMIC CHORD社所属のバンド(apple-polisherとLiar-S)の曲が流れ、それぞれが紹介される。

 ロードバイク、オートバイツーリング、買い物、一人駅舎ギター、飲み屋台、定食屋での食事……彼らのプライベートを写した道明寺の仕事っぷりは中々のものだ。

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  • KYOHSO

 ヴォーカルYORITO不在の状況で練習を重ねるKYOHSOの面々。ドラマーのドヤ顔は必見。YORITOは体調不良、それとも「戦士の休息」なのか。

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  • 別荘のYORITO

 渦中のYORITOは、一人別荘で精悍なクラシックを奏でていた。

 「うっ……」

 焚き火とメトロノームが反響する部屋で、ふと演奏を止めるYORITO。うさぎの人形が彼を見つめている。

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  • 晴天、桜花を漕ぐオープンカー

 KYOHSOの練習にはrêve parfaitのボーカル玲音がYARITOの代役として参加することとなった。玲音が「Roots of life」を熱唱する裏でYORITOはひたすらに車を飛ばす。

 rêve parfaitの他のメンバーも練習へ加わる一方で、トンビと海鳥が儚げに鳴く。YORITOと他の皆を表しているかのようだ。

 YORITOが辿り着いた先は、街から遠く離れた海辺の寺院。

 「ごめん……」

 舞い散る桜を背に、悲しげな表情を浮かべながらYORITOは呟く。散り行く桜の波に乗り、海鳥は遠く遠く大海原へと飛んでいく。

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  • 再びの別荘、そして雨

 夜酒の氷は溶け、グラスの傍らにはうさぎの人形が座る。シャワーを浴びるYORITOは思案を重ねる。

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  • 不協和音、追いピアノ

 充実のライブ終わりのrêve parfaitの耳に届いたのはなんと、KYOHSO解散、そしてYORITO脱退のスクープ記事だった。

 玲音が思い出すのは、春雨の中オープンカーに鎮座する、冒頭のYORITOの姿だった。

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□第2話「Unreachable wish」

  • 明け方の別荘

 重々しいピアノの演奏、燃え尽きる薪、グラス中の2つの氷、うさぎの人形……穏やかな朝日と爽やかな風がYORITOを通り過ぎていく。

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  • 考える玲音

 ダイナミックバードが見守る中、玲音はベンチの上であの雨の日のオープンカーを振り返る。雷鳴、ワイパーの音、悲しげなYORITOの面影、走り去る車。「ボチュヴォヴォゥ」と艶やかな蒸気を吐き出すコーヒーメーカーを脇に置き、rêve parfaitの面々はYORITOとKYOHSOについて思いを巡らす。鳥は大空へと羽ばたいてしまった。

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  • 社長とKYOHSO、怒れる道明寺

 スクープ記事のYORITOの写真は道明寺によるものだった。DYNAMIC CHORDの社長は彼の才能を褒め、KYOHSOのメンバーは少しの逡巡の後に頷く。YORITOのことは大丈夫だと言わんばかりに。

  一方、出版社にいる道明寺は、自分の写真が本来の意図とは異なって使用されたことに激昂し、ゲス男を殴る。創作に苦悩するアーティスト像は今の時代にはウケないのだという。

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  • 晴れと桜とオープンカー

 サングラスを掛けたYORITOは助手席にバラの花束を置き、桜並木を駆け抜ける。その花は誰に贈られるのだろうか。

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  • 玲音と道明寺、因縁の再会

 rêve parfaitのヴォーカル玲音とパパラッチ道明寺はYORITOを捜す途中で再び出会う。カフェでのインタビューもどきを通して、玲音は本心を語る。影ではrêve parfaitのメンバーが彼らを見守っていた。

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  • KYOHSOは大丈夫

 練習を終えたrêve parfaitへ届けられたのは、クリスマスライブでの新曲発表という社長命令だった。これはつまり、KYOHSOのことは心配するなと言う社長からのメッセージであった。駆け出す玲音、場面はカフェへと戻る。

  • 心当たりの真相は

 俄に思い立つ道明寺は原付きで直角に走り出す。rêve parfaitも猫のニャン吉に誘われ、車で彼の後を追う。ゴーグルに煌めく夕日に思いを馳せ、道明寺は海沿いをひた走る。慌てるrêve parfaitが辿り着いたのは桜舞う寺院。

 鳴り響く梵鐘に迎えられ、崖上の墓で彼らが見たものは、半焼の線香と鎮座するバラの花束、そして靴跡。海鳥がどこか遠くで鳴いていた。

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  • 雨、隠れ家のYORITO

 無数のキャンドルに囲まれて演奏するYORITO。彼が見つめる盤上にはうさぎの人形が座している。2つ氷が音を立てる。YORITOが遂に動き出すのだろうか。

  • 次回予告

 「途切れてしまったYORITOへの手掛かり。優しい沈黙は誰のために、何のために。そして叶わなかった夢。KYOHSOはやっぱりすごいぜ!」

 

□第3話「Requiem」

  • YORITO立つ

 小鳥のさえずりの中、右手にうさぎの人形を抱え、左手にグラスを構えるYORITO。瞬間、彼はグラスを上へ振りかざす。3つの氷はダイナミックに森へと吸い込まれていった。

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  • 伊澄社長とドヤム(睡眠不足)と道明寺の会食

別荘へ潜入するために垂直崖登りを終えた道明寺のカメラに写ったのは、DYNAMIC CHORD社長の伊澄と(どや顔)ドラムのSHINOMUNEだった。

 パエリアを食べるドヤムを背に、YORITOのことを「あと少しだけそっとして置いてやって欲しい、あの時のように」と道明寺に告げる社長。バスはダイナミックにカーブする。

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  • 「あの"時"」

 以前にYORITOの女性問題(事実無根)でマスコミがゴシップ騒ぎをした時も、YORITOとKYOHSOは沈黙を守っていた。

 YORITOの密会相手が「療養中の難病の幼い少女」だと道明寺は突き止めていた。しかしながら「道明寺が、危うく脆いその少女の心を思いやり、美談としても扱えたそのスクープを捨てた」ことがあったという。

 「あの頃とは変わってしまったな、街並みも……」その後に続く言葉を控え、ひぐらしの鳴き声を聴きながら社長は思いを馳せる。

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  • 「あの"頃"」

 バラの花、カメラ、点滴、うさぎの人形、そして虹色の幻。「私ね、楽しい思い出があるの」と語る少女の声。道明寺は何かに勘付き、原付きで駆け出していく。

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  • ダイナミックバイセコー

河原のベンチで寝ていた玲音の前を、真剣な顔をした原付きの道明寺が横切ると、玲音は彼を追うために同僚の自転車を強奪し、ダイナミックに川と土手を駆け上がる。近くに居合わせた子どもたちによると、その姿はコードレンジャーなるものに似ているらしい。天気は崩れ、雨が降り出す。

  • YORITOの回想

曇天を見上げるYORITOの脳内には、激しい劇伴と共に、大歓声に包まれたKYOHSOのライブが浮かんでいた。

 場面は変わり、うさぎの人形を携えながらファンレターを読むYORITO。ハッと、彼は何かに気づく。

 ―「ごめん……」―

 例の寺院、バラの花を捧げ、満開の桜の階段を降りながら、彼は呟いた。

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  • 玲音の回想

 道明寺を必死に追いかける中で、玲音はこの前のYORITOとのやり取りを思い出す。

 「DYNAMIC CHORD史上最大規模ですっごい反響」だという「この間のライブ」。しかしそのライブの中継を断ったのは自分だ、とYORITOは言った。

  ―「(俺は 誰のために 何のために歌っていたのかな…)」―

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  • Requiem -because the sky...-

 雨上がりに道明寺と玲音が辿りついた先は廃虚と化した遊園地だった。

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 ―― まだ唄えるのか? 

    もう苦しくはないだろう?

    俺から離れたなら

    お前の華奢なその手には

    愛をつかめたのか?

    眩しいほど青い空へ伸ばしたなら

    くだけ散った心さえ

    まだきらめいている

    その痛み明かしてくはずさ

 

    ほぉ~~~~ん

    

    消えた夢もお前と見たのなら

    意味があるだろう

    輝くもの永遠に俺の心

    照らし続けると

    お前のすべてが示した ――

 

 玲音と道明寺が見たものは、屋外のステージで独唱するYORITOの姿だった。唯一の観客として、バラを抱えたうさぎの人形が客席に置かれていた。彼はうさぎの人形を亡くなった少女に見立て、天国の彼女へと唄を捧げていたのだ。

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 道明寺はレクイエムを聴きながらその難病の少女のことを思い出す。

 ―「私ね、楽しい思い出があるの。そこで、KYOHSOのYORITOのライブを見るのが夢なの。」―

 そう!この廃れた遊園地こそが!!彼女の「楽しい思い出」の場所であったのだ!!!

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  • Reached ”Unreachable wish”

 YORITOの葬送が終了したところで、隠れていた道明寺はカメラを彼に差し出す。

 ―YORITO「これは、あの時の」―

 ―道明寺「ええ、中継されなかったライブです。」―

 件の騒動のために「中継されなかったライブ」は、道明寺が自らのカメラに収め、少女へ届けていたのだ。それを知ったYORITOは全てを悟る。

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  ―YORITO「ありがとう……」―

(雲は晴れ、ステージがうさぎの人形と後光に照らされる。)

  ―少女「ありがとう!」―

  

 YORITOと少女の、「Unreachable wish」が、道明寺を通して報われた瞬間である。

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  ―― because the sky is high,

     because the sky is blue,

     純粋なものは純粋なままで消えてった ――

(KYOHSO「because the sky...」)

 

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□総評

 印象的な演出と、3話分という長い時間を効果的に活用し、YORITOと少女の救済の物語という難しいテーマを緻密に描いた。特にYORITOの懊悩の描写は見事だった。1、2話では不可解な要素が、3話で理解できたときの快感は忘れることはないだろう。ゾクゾクする劇伴の盛り上げも良し。MVPは実質主人公格のパパラッチ道明寺か。

 

【おまけ 2021/11/03 追記】

 今更ですが以前Fani通さん(コミケC94)に寄稿したDYNAMIC CHORDの感想を、短い内容ですが掲載します。

―4つの音楽バンド。16人のバンドマン。「日本の四季を背景に彼らのリアルを描いたドキュメンタリームービー。」それぞれのバンドに据えられたテーマが季節に沿って緻密に展開される。それを理解するために、このアニメには余すことなく意味(意図)が詰め込まれている。侘び寂びのある劇伴と拘ったSEと繰り返される挿入歌、独特の台詞と「間」、味のある構図(寄せ引き、スライド、パンアップ&ダウン)の多用。ともすれば冗長になりがちで「退屈な」演出の多用は、図らずも彼らの情景を咀嚼する時間と空間を与えてくれる。華やかなバンドシーンと慎ましい技巧による合奏は、琴線に力強く触れ、叙情詩のような光景を現していた。―

 

この記事の画像は全て、TVアニメ「DYNAMIC CHORD」(©ASGARD/DYNAMIC CHORD)より引用しています